海で青いビニール袋のようなユラユラした生物を見たことはないでしょうか。袋状の傘から長い触手が伸び、クラゲのように見える生物はもしかすると「カツオノエボシ」かもしれません。ここでは、カツオノエボシの生態や刺された場合の応急処置などを詳しく解説します。
カツオノエボシとは
カツオノエボシによる被害のニュースを目にすることもあるでしょう。見た目はクラゲのようにも見える生き物ですが、実はクラゲではありません。ここでは、カツオノエボシの生態についても詳しく紹介します。
カツオノエボシの生態
カツオノエボシとは、クダクラゲ目カツオノエボシ科に属する生物で本州より南の太平洋沿岸でみられます。正確にいうと、カツオノエボシはクラゲではありません。刺胞動物の仲間である「ヒドロムシ」が集まってひとつの群体を作り、形を成しています。
さらに、カツオノエボシは触手を形成するもの、ポリプ(刺胞動物の生活に適応する形態)、生殖機能を有するものなど、それぞれ体の部分に役割があり、独立した機能を果たしています。
カツオノエボシの名前の由来
「なぜカツオノエボシという名前なの?」と不思議に思う人もいるのではないでしょうか。これはカツオの季節に出没し、古代の和装でみられる筒状の帽子「烏帽子(エボシ)」に傘の形が似ていることから、「カツオノエボシ」と呼ばれるようになったことが由来だとされています。烏帽子は現代においても神主の方が着用しており、目にする機会もあるでしょう。
カツオノエボシの見た目
鮮やかな青色で、太陽や海水に反射してキラキラと輝き、砂浜や海面にゆらゆらと動く姿が印象的なカツオノエボシは、海外では「ブルーボトルジュエリーフィッシュ」と呼ばれています。カツオノエボシ自体に遊泳力はほとんどなく、海水の流れによって移動しながら生息しており、主に仔稚魚などをエサとして命をつないでいます。
薄いビニールのような傘自体は約10cmと小ぶりではあるものの、延びる触手は10~30mほどの長さ。その長く伸びる触手で、しっかりと魚をとらえています。さらに、よく観察をすると小さな無数の「刺胞」と呼ばれる粒が集まっているのがわかります。この刺胞に触れると強い衝撃が人の体に走り、まるで感電したかのような感覚に陥ることから、別名「デンキクラゲ」という呼び名もあるほどです。刺胞によって、自分の身を外敵から守っています。
カツオノエボシを触るのはNG
カツオノエボシに刺されたという被害をニュースで見ることもあるのではないでしょうか。海外では、カツオノエボシによる死亡例も報告されています。ここではカツオノエボシの危険性や発生場所、出没時期について解説。
カツオノエボシの危険性
カツオノエボシの触手には、無数の「刺胞」が並んでいます。この刺胞に誤って触れてしまうと、毒が放たれて触れた部分にアレルギー症状を呈してしまうのです。そのため、赤みや腫れとともに電気が走ったような激痛が走ります。
また、危険なのが、「アナフィラキシーショック」を起こすこと。アナフィラキシーショックといえば、蜂に刺された場合に起こすアレルギー症状のことでご存じの方も多いでしょう。
カツオノエボシに2回刺されてしまうと、頭痛や吐き気、呼吸困難や頻脈といった症状が現れ、血圧低下によりショック状態に陥ってしまいます。場合によっては命を落とすこともあるため、注意が必要です。
さらに、刺されてから数分から15分ほどで症状が出現するため、万が一刺されてしまった場合、気分が悪いなどいつもと違う症状があるときには速やかな対処が必要です。
見た目の美しさかから思わず触りたくなりますが、興味本位で触らないこと、自分の手や足を近づけないことが大切です。特に傘の部分というより、その下に延びる長い触手に刺胞があるため、気をつけるようにしましょう。また、素足で歩かないなど、刺されないための対策も行うことが大切です。
カツオノエボシの発生場所と出没時期
カツオノエボシは本州より南の太平洋沿岸にみられ、春から秋ごろに出没し、この時期にカツオノエボシによる被害を耳にすることも増えます。冬以外の時期は、カツオノエボシの出現に特に気を付けたいです。海水浴のシーズンも挟むため、観光や海水浴で太平洋沿岸に行く際には特に注意が必要。
普段は沖合で遊泳しているカツオノエボシも台風後に強い南風に乗って砂浜などに漂着しやすいため、台風や悪天候後に海に行く際は細心の注意を払う必要があります。
近年は大型台風の接近や大雨などが各地でニュースになることも多く、これまでカツオノエボシの被害を聞かなかった場所でも、太平洋沿岸の地域では出没の可能性も考慮しておくことが大切です。またサーファーや職業柄、海に行くことが多いという人も刺されないような対策が重要になります。
カツオノエボシに刺されたときはどうしたらいい?
海で泳いでいて、あるいは砂浜で万が一カツオノエボシに刺されてしまった場合には、応急処置を行う必要があります。早い段階で応急処置を行うことによって、症状の進行を防ぐことになるからです。
また、カツオノエボシに刺された際に間違った応急処置をしてしまうと、逆に症状を悪化させてしまうため、注意しましょう。ここではカツオノエボシに刺された際の具体的な応急処置の内容や誤った処置について詳しく解説します。
刺された際の応急処置
万が一カツオノエボシに刺されてしまった場合には、以下のような応急処置を行いましょう。
カツオノエボシに海水をかけて洗い流す
カツオノエボシに触れてしまった際には、海水をかけて洗い流しましょう。刺されて強い痛みがあり、動くのがつらい場合には、近くにいる人や周囲の人に手伝ってもらい、速やかに対処することが大切です。
触手をゆっくりとはがす
カツオノエボシの触手をゆっくりと人の体からはがします。その際に手が触れてしまうと、刺胞が反応して毒が放出されるため、できるだけ直接触れずに細長い棒やピンセットを使って慎重にはがしましょう。
患部に45度くらいのお湯を当てる
カツオノエボシの毒はタンパク質であるため、熱いお湯をかけることで働きを弱めることができます。熱すぎるお湯をかけてしまうとやけどの恐れもあるため、45度くらいのお湯を当てましょう。
冷水や氷水で患部を冷やす
患部が赤みを伴い、腫れている場合にはカツオノエボシの触手が完全に離れている冷水や氷水で患部を冷やします。
誤った方法に注意!
数ある対処方法のなかにも、やってはいけない方法もあります。こちらでは、間違った対処方法を確認しておきましょう。
真水をかけてはいけない
真水をかけると刺胞が活発になり、毒を放つ可能性があります。そのため、カツオノエボシが驚かないように海水をかけましょう。
お酢をかけてはいけない
お酢に含まれる酢酸という成分は、まだ毒をもつ刺胞を不活化させるといわれており、クラゲの仲間でも種類によっては、効果を発揮することが分かっています。しかし、カツオノエボシの場合は、その逆でますます働きを活性化させてしまうため、お酢は使わないようにしましょう。
触手を無理やり取ってはいけない
カツオノエボシの触手を無理に力づくで取ろうとすると、かえってカツオノエボシを刺激してしまうことがあります。そのため、優しく扱うことが大切です。
まとめ
カツオノエボシは、死骸であっても毒を持っているため、動かないからといって決して触らないようにしましょう。きれいな見た目でつい触ってしまいたくなりますが、ケガやアナフィラキシーショックでの死亡事故にもつながります。
触らないことはもちろん、肌の露出を最小限に抑える服装にする、裸足で砂浜を歩かないなどといった対策も大切です。