東北・東日本大震災が起きた際、福島では大規模な原発事故が起きました。このとき、有害物質を含んだ水である「汚染水」が発生したことは、海で活動するサーファーにも大きな影響を及ぼしました。日本政府はこの汚染水を海洋に放出する方針を決めています。では、この汚染水海洋放出はサーファーにどのような影響を及ぼすのでしょうか。ここではその影響について紹介していきたいと思います。
汚染水の性質とその状況とは
名前からも、その水がきれいな水ではないことがわかる「汚染水」ですが、これはどのように発生し、どのような性質のものなのでしょうか。まずここでは、汚染水について紹介していきます。
汚染水とは
通常「汚染水」と呼ばれるものは、福島第一原子力発電所で起こった事故によって発生している高濃度の放射性物質を含んだ水のことを指しています。溶けて固まった燃料デブリを冷やすための水が燃料デブリに触れることで、放射性物質を含んだ「汚染水」になります。
さらに、雨水や地下水が原子炉建屋やタービン建屋の中に入り込み、その中の放射性物質や汚染水と混じることで、新しく汚染水が発生。現在1日140トンのペースで放射性物質を含んだ汚染水が発生しているといわれています。
処理水とは
「処理水」とは、この汚染水を複数の設備で放射性物質の濃度を低減するための浄化処理を行った上で、福島第一原発敷地内のタンクに貯蔵している水のことを指します。
しかし、すでにこのタンクは1,000基以上が設置されていて、約137万トンの総容量のうち、9割以上に水が入っているとされています。
現在、2022年の秋にはタンクが満杯になる予定となっていますが、今後廃炉作業を進めるにあたって作業スペース、建築スペースが必要となることから、これ以上はタンクを増設することができないといわれています。
汚染水放出の危険性を訴える声
日本政府は、この汚染水を再処理した上で海洋放出すると決定しています。国内外に大きな波紋を広げたこの決定はどういったものなのでしょうか。
汚染水放出の決定
汚染水の処理については、ALPS小委員会で5つの方法が検討されていました。その中で「水蒸気放出」と「海洋放出」の2つの案がより現実的であると判断。2つの中でも設備の取り扱いや試験、モニタリングが行いやすいという理由で「海洋放出」が採用されました。
この決定については国際原子力機関(IAEA)は「科学的な分析に基づくもの」と評価しています。
そうして2021年4月13日、日本政府は福島第一原発の冷却に使用されていた、トリチウムなどが含まれる汚染水100万トン以上を福島県沖の太平洋に放出することを決定ました。放出は2年後から始まる予定となっており、放出計画が完了するまでは数十年かかる計算となっています。
処理水放出を不安視する声とは
日本政府によると、今回海洋放出される処理水にはトリチウム以外の放射性物質はほぼ含まれていないとしています。これは、トリチウムだけは水から分離させることが技術的に難しいということが関係しているといわれています。
このトリチウムは体内に取り込んだとしても、そのまま体外に排出されることが多く、健康被害が起こりにくいとされています。海外の原子力発電所でも、トリチウムが含まれた水の放出は実際に行われています。こうした観点から、大きな問題はないと日本政府は発表しています。
汚染水海洋放出を危険視する人の中には、特に2018年の東京電力の検査及び発表に疑問を抱いている人が多いといわれています。
2018年、他核種処理設備ALPSでの処理を行ったにもかかわらず、セシウム137、ストロンチウム90、ヨウ素131など、トリチウム以外の放射性核種が検出限界値を超えて発見されたことがあるからです。
そのときまで、東京電力は処理水内のトリチウム以外の核種は検出できないほど微量であると主張していたのですが、今回の処理水放出が決定した際には、過去の検出結果についての説明は行っていませんでした。
海洋放出を行う2023年までに再処理を行った上で海洋放出をするとしていますが、それまでに適切な再処理を行うことができるのかが疑問視されています。
また、汚染水の海洋放出が決定した4月13日には、経済産業省がこれまでの「ALPS処理水」の定義を変更しています。新しく「トリチウム以外の核種について、環境放出の際の規制基準を満たす水」だけを「ALPS処理水」として呼ぶことに決定したのです。
つまり、それまで「ALPS処理水」と呼ばれていた水であっても、この条件を満たしていなければ「ALPS処理水」ではなくなったということです。
さらに、これから規制基準をクリアしていくための方法については、「二次処理もしくは希釈」としていることから、もし基準を満たさなくても希釈することで濃度を薄めて、基準値を下回ればそれでよいという考え方もあるとされています。こうした点が疑問視されています。
汚染水の海洋放出とサーフィンの関係とは
福島県沖で汚染水が海洋放出されることについては、漁業関係者やサーファーたちにとっては非常に関心があること。この辺りでは「九十九里浜」が大きなサーフスポットですが、こうした場所に影響はあるのでしょうか。
実際に放出された汚染水はどのようになるのか
もっとも気になるのは、海洋に放出された汚染水はどのようになっていくのかということでしょう。福島県沖には2つの大きな海流があります。北から南にかけては親潮、南から北にかけては黒潮が流れてきています。
福島県沖から放出された汚染水は、親潮に乗って南下。親潮は時速1~2km程度ですので、4日ほどかけて銚子沖まで流れてくることになります。そしてその辺りで北上してきた、時速2kmほどの勢いのある海流「黒潮」とぶつかることになります。
これらを踏まえると、汚染水は以下のような流れで運ばれることが考えられます。
- 福島県沖で海洋放出された汚染水は銚子沖まで4日ほどかけて流れていく
- 4日の間に汚染物質のほとんどは海底に沈んでいく
- 銚子沖で黒潮とぶつかり、さらにかき消されていく
こうしてみると安全なように思われますが、政府や東京電力による今後の発表からは引き続き目が離せません。
九十九里浜でサーフィンをする危険性は?
実際のところ、九十九里浜における汚染水の影響は以下のとおりだと考えられます。
- 汚染水、汚染物質が九十九里浜までたどり着くことが難しい
- たどり着いたとしてもほぼ存在しないほどに希釈されている
- 体に有害な量となると、その辺りの海水を短期間に数千ℓ飲む必要がある
資源エネルギー庁の発表においても、「トリチウムは海水中に放出されたあとは拡散して、今、海水中にあるトリチウムと混ざり合うことで、現在のトリチウム濃度とほとんど変わらなくなる」とされており、「福島第一原子力発電所の南北1〜1.5kmを超えると、普通の海と変わらない状況になる」とされています。
さらにこの南北1~1.5kmにおいても、通常の海水と比べるとわずかに濃度は高くなっているものの、WHO飲料水基準と比べても濃度は十分に低くなるとされているのです。
つまり、福島県沖から数百km離れた九十九里浜において、サーフィンなどのマリンスポーツを行うことについては、まったくといってよいほど「関係はない」ということになります。
まとめ
2021年4月に発表された「汚染水海洋放出」については、漁業関係者やサーファーなどの関心を集めました。サーフィンをするにあたって健康被害を気にしたりするという方もいるでしょうが、実際にはサーフィンをすることに対して「まったく影響はない」とのこと。
安心してサーフィンを続けられるよう、今後も政府や東京電力の発表に注目して情報収集を行いましょう。